【ニュースの意味】
令和4年11月25日に、中部電力、中国電力、九州電力が企業向けの電力販売について、互いのエリアに参入しないよう談合していたとの報道がありました(https://www.yomiuri.co.jp/economy/20221125-OYT1T50315/)。課徴金は当初は数百億円かとされていましたが、最近の報道では、合計1000億円を超えるともされています(https://news.yahoo.co.jp/articles/bd2a0a362b243b59734f7a45e6973d266a4eb530)。
主導したとされる関西電力は、最初に公正取引委員会に処分を免れる見通しとされています。これは課徴金減免制度で、公正取引委員会が調査を介する前に最初に申告した事業者に当たるためと考えられます。
談合は不当な取引制限として、独占禁止法上禁止されています(同法2条6項、同法3条後段)。本来各事業者の価格決定は、生産にかかるコスト等を勘案し、利益を得ることができるうち、顧客が買ってくれるであろう安い価格が設定されることが想定されます。他のライバル事業者が同等の品質の商品・サービスをよりやすく売れば顧客を取られてしまいますので、そこに価格競争が生まれます。
談合は、ライバル事業者が話し合って価格競争があった場合よりも高めの価格を設定するものですから、競争が失われ、顧客は高い商品・サービスを購入することを強いられます。こうした行為が存置されれば、商品・サービスを改良してより安くより良いものを産もうとするインセンティブも失われてしまうため、独禁法はこれを規制しているのです。
なお、こうした談合行為は、顧客の財を不正に奪う側面もあるため、刑法上も談合罪が定められていますが(刑法96条の6)、こちらはあまり使われていません。
談合は密室で行われて発覚しにくかったため、我が国でも課徴金減免制度(リーニエンシー制度)が導入されました(独禁法7条の4)。
課徴金減免制度とは、事業者が自ら関与したカルテル・入札談合について,その違反内容を公正取引委員会に自主的に報告した場合,課徴金が減免される制度とされます。
いくら減免されるかは、公正取引委員会の調査開始前か後かで異なり、調査開始前に最初に申告した事業者は、免除されます。
➡ 公正取引委員会(https://www.jftc.go.jp/dk/seido/genmen/genmen_2.html)
この課徴金減免制度ですが、日本の法制度の中ではかなり特異な制度であることには注目を要します。
日本の法制度は行為の悪性に応じた制裁を用意し、それによって悪質な行為を抑止する枠組みを堅持することが多いです。そのため懲罰的損害賠償などの制度も導入されていません。ところが、この課徴金減免制度では、たとえ、首謀者であっても、最初に申告すれば、課徴金を免除されます。談合の内実に照らせば、それは顧客から奪った利益をそのまま保持できることになります。
談合裏切りの利益がそれだけ大きく設定されていることになりますが、談合が一度成立してしまえば旨みが大きいため、それだけ反対側の利益も大きく設定する必要があったのです。
話を持ちかけてきておきながら最初に裏切る人が得をする、一見すると日本人の道徳観念からは疑問も感じる制度ですが、それが許される背景は以上のところになります。
以上を踏まえて、みなさんは今回の報道をどのように感じますか?他のライバル企業は1000億超の課徴金を受けるというのも相当なもので、かなりショッキングなニュースであることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
「裏切り奨励制度」。一見無味乾燥なニュースも、実はかなりドラスティックなお話しであることも少なくありません。こうした注目すべきニュースについて、折に触れてご紹介していきたいと思います。
(2022年12月8日 城戸)